メーカーエンジニアに英語は必要?生産技術10年で実際に使った場面|TOEICの位置づけも

メーカーエンジニアに英語は必要?生産技術10年で実際に使った場面|TOEICの位置づけも

メーカーの求人票には、当たり前のように「英語力歓迎」「TOEIC○○点以上」と書かれています。一方で、周りを見渡すと英語をほとんど使わずに長く働いている人もいる。結局どっちなのかが分かりにくい職種です。

私は生産技術を10年やってきました。英語が得意だったわけではありません。それでも、実務のなかで英語が必要になる場面は確実にありました。この記事では、実際にどの場面で・どの技能が・どのレベルで要ったのかを、TOEICの位置づけと分けて整理します。

先に結論

英語が要るかどうかは職種ではなく「何を相手にするか」で決まります。海外製の設備を扱うなら、会話の前に読む力が先に要ります。
順番は ①読む → ②書く(メール)→ ③聞く・話す。そしてTOEICの点は入場券として効く場面はあっても、実務で困る/困らないを直接は決めない——というのが、私の実感です。


結論:要るかどうかは「職種」ではなく「相手」で決まる

「生産技術に英語は必要か」という問いは、そのままでは答えが出ません。同じ職種でも、担当するものによって必要度がまったく違うからです。分かれ目は、次のどれに当たるかです。

担当している対象 英語の必要度 主に要る技能
国内メーカー製の設備・国内向け製品のみ 低め(無くても回る場面が多い) ほぼ不要〜読む(規格・資料)
海外製の設備・部品を扱う 中〜高 読む>書く>聞く
海外拠点への工程展開・立ち上げ支援 高い 読む・書く・話す(全部)
外資系メーカー/海外本社の傘下 高い(社内言語として) 書く・聞く・話す

つまり、同じ「生産技術」でも、配属先で必要度は大きく振れます。求人票に英語の条件が書かれていても、それが「日常的に使う」なのか「将来的に使う可能性がある」なのかは、面談で確かめないと分かりません。


生産技術の現場で、英語が出てくる5つの場面

① 海外製設備の取扱説明書・回路図・エラー表示

いちばん頻度が高いのがここです。海外メーカーの設備には、英語(あるいは別の言語)の資料が付いてきます。設備が止まって、画面に英語のエラーが出ている——この状況で資料を開くのが、生産技術としての最初の英語体験になることが多いと思います。

この場面で要るのは会話力ではなく、読む力、それも技術文書に限定された読む力です。しかも辞書を引く時間はあります。焦るのは英語のせいというより、ラインが止まっているせいです。

② 海外メーカーのサービス担当とのやり取り

設備の不具合が自社で解けないとき、メーカー側の技術者に連絡することになります。代理店が間に入る場合もありますが、技術的な中身は結局こちらが書くことになりがちです。ここで要るのが書く力です。

③ 海外拠点への工程展開・立ち上げ支援

国内で確立した工程を海外拠点へ移す、あるいは現地の立ち上げを手伝う場面です。ここまで来ると、聞く・話すが必要になります。通訳が付くこともありますが、後述するとおり、それで全部が済むわけではありません。

④ 規格・データシート・技術資料

材料のデータシート、海外規格の文書、部品メーカーの技術資料などです。日本語版が無いものも多く、読む力が効いてきます。頻度は職場によって大きく違います。

⑤ 社内の英語資料・報告

本社が海外にある場合や、グローバルで共通の様式を使っている場合です。報告書のフォーマットが英語、という職場もあります。この場合は入った瞬間から必要になるので、事前に確認しておきたいところです。


技能の優先順位——読む>書く>聞く>話す

上の5つを並べると、生産技術で必要になる順番がはっきりします。

  1. 読む:頻度が最も高く、いちばん早く必要になる。しかも辞書を使える
  2. 書く:次に来る。これも時間をかけられるので、型があれば何とかなる
  3. 聞く:海外拠点や海外メーカーとの打ち合わせで必要。時間をかけられない
  4. 話す:いちばん後。かつ、代替手段(図・数字・実物)がいちばん効く

英語学習というと会話から入る人が多いのですが、生産技術に限れば、順番はむしろ逆だと感じます。読めないと仕事が始まらないのに対し、話せなくても図面と数字で通じる場面がかなりあるからです。


実務で本当に効いた英語の中身

① 設備の英語は、実は語彙が狭い

これは早めに気づいておくと楽になる点です。設備の資料に出てくる英語は、使われる語がかなり限られています。動作、異常、部品名、単位、安全に関する言い回し——この辺りが繰り返し出てくる。

つまり、一般的な英語力を上げなくても、自分の担当設備の語彙だけを覚えれば、その設備の資料は読めるようになる。私の場合、最初の設備で分からない語を書き出していったら、数か月で同じ語ばかりになりました。そこから先は、新しい設備が来ても立ち上がりが早くなりました。

② メールは「型」でかなり足りる

海外メーカーへ不具合を連絡するメールは、毎回ゼロから書くものではありません。伝えるべきことは、たいてい次の3つに収まります。

  • 何が起きたか(現象・エラー表示・発生条件)
  • こちらで何を確認したか(試したこと・その結果)
  • 何をしてほしいか(回答が欲しいのか、部品が欲しいのか、来てほしいのか)

この3つを短い文で並べれば、たいていは通じます。凝った表現はむしろ誤解のもとです。写真・画面のスクリーンショット・波形・数値を添えると、文章の負担はさらに減ります。英語が苦手なほど、言葉以外の情報量を増やすほうが確実だと感じました。

③ 通訳が入っても、技術の言葉は自分で持つ必要がある

海外拠点とのやり取りで通訳が入る場合でも、専門的な中身までは通訳しきれないことがあります。通訳の方が製造技術の専門家とは限らないためで、これはどちらが悪いという話ではありません。

そのため、自分の専門領域の用語だけは、英語で言えるようにしておくと話が早くなります。全体を英語でしゃべる必要はなく、キーワードだけでも噛み合い方が変わります。ここは私が現場で一番はっきり効果を感じた部分でした。


TOEICの点は、何に効いて、何に効かないのか

ここは分けて考えたほうがよい部分です。誤解を恐れずに言えば、TOEICは「機会を得るための入場券」として働く場面がある一方、実務で困るかどうかを直接は決めません。

場面 点数が効きやすいか 補足
求人の応募条件・書類選考 効きやすい 条件として明記されると、点が無いこと自体が足切りになる場合がある
社内の海外案件の人選 効くことがある 判断材料が他に無いとき、点が使われることがある
昇進・手当の条件 会社による 制度として決まっている会社もある
設備資料を読む 直接は効きにくい 専門語彙の比重が高く、点数と一致しないことがある
現地で話を通す 直接は効きにくい 技術の中身と度胸の比重が大きい

この構図は、資格全般と似ています。持っていることで機会が来やすくなる一方、持っているだけでは仕事はできない。生産技術における資格の位置づけについてはQC検定とは?生産技術者が取る意味と、現場での使いどころで同じ考え方を整理しました。英語もこの枠で見ると迷いにくいと思います。

どのくらいの点を目指すべきか、という問いには一律の答えは無いと感じます。応募したい求人に条件が書かれているなら、そこが目安になります。条件が無いなら、点のために時間を使うより担当領域の語彙と読解に寄せたほうが、実務では早く効くというのが私の見方です。ただし会社の制度で点が求められている場合は、この限りではありません。


私の場合(体験として)

入社した当初、英語はほぼできませんでした。最初にぶつかったのは海外製設備の資料で、辞書を引きながら読むところから始めています。半年くらいは、資料1ページに時間がかかっていたと思います。

転機になったのは、分からない語をその都度メモして、自分用の用語帳を作ったことでした。一般的な単語帳ではなく、目の前の設備に出てくる語だけを集めたものです。冊子と言えるほどの量ではありませんが、これが一番効きました。

その後、海外メーカーとメールをやり取りする機会が来ました。最初の1通は書くのに時間がかかりましたが、返信が来て話が進んだとき、「通じる程度で十分なのだ」と分かったのが大きかったと思います。完璧な英語を書こうとしていたあいだは、むしろ手が止まっていました。

これはあくまで私個人の経験です。求められる水準は職場によって違うので、同じやり方で足りるとは限りません。ただ、「まず読む・次に書く」という順番については、一般論としても筋が通っていると感じています。


忙しいなかでの学び方——順番と、時間の作り方

まず、自分の担当設備の資料を教材にする

市販の教材を新しく買う前に、手元の資料を使うほうが早いことがあります。理由は3つあります。

  • 出てくる語が実際に必要な語に限られている
  • 意味が分からなくても、設備の動きから推測できる(文脈が強い)
  • 読めた分がその日の仕事に直結するので続きやすい

次に、定型のメールを1つ作っておく

先ほどの3要素(何が起きたか/何を確認したか/何をしてほしいか)の型を、自分用に1つ作って保存しておくと、必要になったときの負担が大きく減ります。使うたびに少しずつ直していけば、それが自分の資産になります。

会話は、必要になってから始めても間に合うことが多い

海外出張や現地支援の話は、たいてい少し前から見えてきます。そこから準備を始めても遅くないケースが多いと感じました。逆に、使う予定が無いまま会話の練習を続けるのは、忙しい時期には続きにくいと思います。

時間の作り方については、勤務形態の影響も大きい部分です。交代勤務や立ち上げの繁忙期は、学習の時間そのものが取りにくくなります。そこを含めて計画するほうが現実的です。


英語は、転職市場ではどう効くのか

メーカーエンジニアの転職において、英語は「単体の武器」というより「掛け算の一因」として働きやすいと感じます。英語だけができる人より、技術があって、そのうえで英語も扱える人のほうが、探されている場面が多いためです。

  • 海外拠点を持つメーカー:立ち上げ支援や技術移管の担い手として見られやすい
  • 外資系の製造業:社内言語としての比重が高く、条件に入りやすい
  • 設備メーカー側:顧客が海外にいる場合、読む・書くの比重が高い

自分の持っているものを層で棚卸ししておくと、英語をどこに置くかが見えやすくなります(→生産技術に必要なスキルとは?4つの層で棚卸しする|元・中の人の実感)。実績としてどう書くかは生産技術の職務経歴書の書き方|転職で効く"実績の言語化"のコツのほうが詳しいです。

なお、英語を軸に別業界へ移ることを考える場合は、活かせる部分と活かしにくい部分があります(→生産技術から異業種へ転職できる?活かせるスキルと現実)。


逆に、英語に時間を使いすぎないほうがよい場合

バランスの話も書いておきます。次のような状況では、英語より先に手を付けたいものがあるかもしれません。

  • 担当している技術の中身が、まだ固まっていない時期。土台のほうが先に効く場合があります
  • 海外との接点が業務上ほとんど無く、今後も予定が無い場合。使わない期間が長いと、身につけた分は目減りしやすい
  • 転職の予定が近く、実績の言語化が済んでいない場合。書類と面接の準備のほうが直接的です

この職種の将来性という観点で言えば、英語は「あると選択肢が増えるもの」であって、「無いと生き残れないもの」とまでは言い切れないと感じています。そのあたりの見立てはメーカーエンジニアの将来性|10年後も食えるのかにまとめました。


よくある疑問Q&A

Q. 英語が苦手でも、生産技術として問題なくやっていけますか。
→ 配属先によります。国内向けの製品と国内製の設備が中心なら、英語をほとんど使わずに長く働いている方もいます。ただ、海外製設備が入ってくる可能性はどの職場にもあるので、読む力だけは持っておくと安心材料になると思います。

Q. TOEICは何点あれば足りますか。
→ 一律の基準は無いと思います。応募先の条件に書かれていればそれが目安になりますし、社内制度で決まっているならそちらが優先です。条件が無い場合、点そのものより「担当領域の資料を読めるか」のほうが実務では効きやすいと感じます。

Q. 会話ができないと、海外拠点の支援には行けませんか。
→ 行っている人はいます。技術の中身が共通言語になる場面が多く、図・数値・実物が助けになるためです。ただ、雑談や交渉まで含めると負担が大きいのは事実で、そこは正直に会社と話しておくほうがよいと思います。

Q. 英語ができると年収は上がりますか。
→ 会社の制度として手当がある場合は直接効きます。そうでない場合は、英語単体ではなく「海外案件を担当できること」を通じて効くほうが多い印象です(→生産技術の年収リアルと、上げ方|10年やった元・中の人の実感と3つのルート)。

Q. 翻訳ツールがあれば、もう英語は要らないのでは。
→ 読む場面ではかなり助けになっていると思います。一方で、打ち合わせの場でその場の判断を返すときや、専門語の訳が実態とずれているかを見抜くときには、自分の側の理解が要ります。道具で下限は上がっても、判断までは代わってくれない、という感覚です。


まとめ

  • 英語が要るかは職種ではなく「何を相手にするか」で決まる。同じ生産技術でも配属で大きく振れる。
  • 必要になる順番は読む → 書く → 聞く → 話す。会話から入る一般的な学習順とは逆になりやすい。
  • 設備の英語は語彙が狭い。担当領域の用語を自分用に集めるのが、遠回りに見えて早い。
  • メールは「何が起きたか/何を確認したか/何をしてほしいか」の型で足りることが多い。図と数値が負担を減らす。
  • TOEICは入場券として効く場面があるが、実務で困るかどうかを直接は決めない。資格と同じ枠で見ると迷いにくい。

英語ができないことを理由に、海外の設備や案件から距離を取っていた時期が私にもありました。ただ、実際にやってみると、求められていたのは英語力そのものより「技術の話を、英語でもやり取りしようとする姿勢」のほうだった気がします。設備は世界中どこでも同じ理屈で動いています。話が通じる下地は、思っていたより最初からあったのだと感じました。


中の人・カズ

この記事を書いた人|カズ(元・生産技術10年)

大手製造メーカーで生産技術を10年以上(設備の立ち上げ・工程改善・量産化を現場で担当)した後、別業界の製造業へ転職。「元・中の人」の一次情報で、メーカーエンジニアの仕事・キャリア・転職を、比較サイトには書けない本音で発信しています。特定の企業・製品・個人が分かる情報は書かず、体験と一般論を分けて記しています。